昨今の植物性ミルクブームの火付け役となったのがアーモンドミルクです。今までアーモンドといえばお菓子のアーモンドチョコレート(ペットにチョコはNGです)、お酒のおつまみとしてのナッツくらいでした。それが現在、第3のミルク:健康飲料という分野が出来上がりつつあります。
目次
【アーモンドミルクの人気】
アーモンドミルクの国内市場は販売金額148憶円で前年比48%アップとのことです。米国をはじめ世界中において、アーモンドミルクの需要は年々伸びています(アーモンドミルク研究会調べ)。
世界の普及率
世界8か国でのアーモンドミルクの飲用経験者割合を見てみると40~50%といったところです。日本は29%となっていますので、おおむね3人に1人の割合で飲んだことがあることになります(独立行政法人 農畜産業振興機構 2021年)。
前回の豆乳に比べるとやや低い感があるものの、第3のミルクの中では1番の成長株です。これはアーモンドミルクに特徴的に含まれる健康成分に対する期待が大きいためと考えられます。
栄養成分の特徴
ここで相模女子大学の佐藤由衣らの報告(2016年)を元に、アーモンドミルクの栄養成分を確認しましょう。なおこの報告では乾燥アーモンド100gに水500mlを加え、ミキサーにかけて濾さずにそのままのものを使用しています。
タンパク質、脂質、炭水化物の3つは牛乳および豆乳ではほぼ同じ値です。これに対してアーモンドミルクの脂質は100gあたり9.0gと2.5倍以上の量があります。
脂肪(脂質)を構成する脂肪酸には動物性脂肪に多い飽和脂肪酸と、植物油に多い不飽和脂肪酸の2種類があります。この内、アーモンドは種子ですので常温で液体の不飽和脂肪酸がメインになります。
不飽和脂肪酸にもいろいろな種類があり、アーモンドミルクには健康に良いとされるオレイン酸(n-9)などの一価不飽和脂肪酸が牛乳・豆乳の7倍以上も含まれています。
アーモンドミルクは脂肪分が多いということで、脂溶性ビタミンもたくさん存在します。中でも抗酸化活性をもつビタミンE(正式名称トコフェロール)は豆乳の2倍である5.2㎎も含まれています。
このようにアーモンドミルクは体に良い油を豊富に含み、これが関与するいろいろな健康機能をもつ第3のミルクであるといえます。
【健康機能:腎臓のケア】
私たちヒトの体はおよそ60兆個の細胞からできており、この細胞の中では呼吸により運ばれてきた酸素を使ってエネルギーが作られています。しかし時折、体の中では逆に細胞を傷つける活性酸素というものが発生します。この厄介な活性酸素の働き(酸化ストレス)をブロックするのが抗酸化物質です。
酸化ストレスと腎機能低下
加齢により機能が低下してくる臓器の代表が腎臓です。これはヒトもペットも同様です。腎臓は無数にある毛細血管の壁を通して血液中の不要なものをろ過し、尿をつくっています。
長年に渡り酸化ストレスを受け続けると毛細血管は炎症を起こします。これにより腎臓のろ過機能は低下し、排泄しなければならないアンモニアや尿素といった老廃物が体内に溜まってしまいます。これが腎不全による尿毒症です。
ペットの死亡原因として泌尿器系疾患はイヌで第3位、ネコは第1位という調査報告があります(井上 舞ら ロイヤルカナンジャポン 2022年)。慢性の腎不全は回復することはありませんので、生涯に渡りフード内容に制限が必要となり、ペットはもちろんオーナーのQOL(生活の質)も低下します。
ビタミンEへの期待
高い抗酸化活性があるビタミンEを豊富に含むアーモンドに着目して、慢性腎臓病ケアへの可能性について検討した研究報告があります(海老沢秀道ら 昭和女子大学 2017年)。海老沢らは実験動物を使って次のような試験を行いました。
●被験動物 ラット
●グループ
通常群(7匹)…健康ラット+通常のエサ
対照群(6匹)…腎臓病モデルラット+通常のエサ
試験群(4匹)…腎臓病モデルラット
+0.5%アーモンドペースト配合のエサ
上記の条件で2か月間飼育し腎臓のろ過能力を測定したところ、アーモンドペーストを給与されていた試験群ラットの値は対照群ラットの約30%もアップしていました。
この試験で使用されたアーモンドペーストとはアーモンドをすりつぶしたもので、ろ過すればアーモンドミルクになります。アーモンドペーストに含まれるビタミンEなどの抗酸化物質が毛細血管の炎症を緩和し、腎臓を酸化ストレスから守ったと考えられます。
先ほども述べましたが、慢性腎不全は治るということはありません。今回の試験データはあくまでも悪化ステージの進行を遅らせる食事ケアの1つとして、今後取り入れられていくかもしれません。
【健康機能:食後の血糖値】
生活習慣病の1つである糖尿病はペットにおいても注意が必要な病気です。腎機能不全と同じように自宅療法として食事ケアがありますが、糖尿病では食後の急激な血糖値の上昇を抑える必要があります。
飲むタイミングは?
アーモンドと血糖値との関係について研究している江崎グリコ㈱の加藤和子らは、マウスを皮付きアーモンドペーストを与える試験群と対照群に分けて糖質給与後の血糖値の推移を調べました(2019年)。
まずはあらかじめ糖質給与30分前に試験品を摂取させると、両群とも血糖値は高く上昇し違いは確認されませんでした。次に糖質と試験品を同時に与えてみると、対照群の血糖値は先ほどと同様の動きでしたが、試験群ではぐっと抑えられました。
この結果からアーモンドペーストには食後の血糖値上昇を抑制する作用があり、摂取するタイミングは食事と同時である方が効果的であることが判りました。
皮はいる?いらない?
アーモンドミルクの作り方は、アーモンドを一晩ほど水につけておいて皮を剥き、ミキサーで滑らかになるまですりつぶしてガーゼや布で濾せば出来上がりです。次は食後の血糖値の動きにアーモンドの皮が関係しているのかを検討しました。
アーモンドペーストを摂取する試験群を皮ありペーストと皮なしペーストに分けました。これに対照群を加え3グループで実験を行ったところ、試験群はどちらも糖質給与後の血糖値上昇を抑えるという結果になりました。
アーモンドには茶色の皮が付いています。食べると独特の渋みがありますが、これはポリフェノールが含まれているためです。アーモンドには種実部分にビタミンE、種皮にはポリフェノールといった抗酸化物質が含まれていますが、血糖値に関してこれらは特に関係は無いようです。
アーモンドオイルが大切
では一体アーモンドの何が食後の血糖値上昇を抑えているのでしょうか?加藤らはアーモンドペーストを水に溶ける成分、水に溶けない成分、オイル成分次の3つに分けてさらに実験を続けました。
この結果、糖質を与えた15分後の血糖値が最も低かったのはオイル成分を摂取したグループでした。これより食後の急激な血糖値上昇を抑制する作用をもっていたのはアーモンドオイルであることが確認されました。
以前、血糖値対策として玄米やおからといった食物繊維を紹介しましたが、今回新しくアーモンドミルクが加わりました。またアーモンドミルクには抗酸化機能もあり、大変有望な食材であると考えられます。
3回シリーズでいろいろな植物性ミルクを紹介しました。植物性ミルクは牛乳の替わりの飲み物といった立ち位置で登場してきたわけですが、現在ではそれぞれ独自の健康機能食材として人気を集め出しています。
しかしペットの健康のためにそのまま与えても、牛乳ほどは喜んで飲んでくれないかもしれません。このような場合は、手作りフードの材料としての活用がおすすめです。植物性ミルクは液体で風味が強すぎないため、フードやおやつの食材としての応用が広がると思います。
(以上)
執筆獣医師のご紹介
本町獣医科サポート
獣医師 北島 崇
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。