獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットとの生活編:テーマ「視線が苦手なネコ」

前回、イヌはオーナーと再会すると目に涙を浮かべ、オーナーはその顔を見ると愛しさを感じるという話をしました。イヌとオーナーは幸福ホルモン(オキシトシン)を介したポジティブループの関係にあるといえます。これに対してネコは一緒に遊んでいても急にすっと離れてゆきます。今回はネコの性格と接し方について考えます。

【ヒトからの視線】

イヌとヒトの間にはオキシトシンという幸福ホルモンを介した愛情関係が成立しています。この代表的な場面が目と目を合わせて見つめ合うという行動です。留守番明けのイヌが涙で目を潤ませてオーナーと再会するというのがコレです。

ネコがヒトを見る時間

みなさんはネコと目が合った時、プイっと横を向かれた経験はありませんか?どうやらネコはヒトの視線が苦手なようです。ネコがヒトの視線に対してどのような反応を示すかについて検討した研究報告があります(子安ひかり ら 麻布大学 2019年)。

●供試動物 ネコ3頭(3~5歳)
●観察者 
・ネコの飼育担当者(5人)
・ネコと顔見知りでない他人(5人)
●観察条件 
・狭い部屋の中でネコ1頭と観察者1人が過ごす
  ・観察者はネコを見る(2分間)、見ない(2分間)を2回行う

上記の設定でネコが観察者を見た合計時間、および観察者を1回見る時間を測定したところ、どちらも視線を向けられているとその時間は短いという結果になりました。なおこの傾向は観察者が顔見知りの飼育担当者でも、まったく知らない他人でも同じでした。

やはりイヌと違ってネコはこちらから視線を向けると目を逸らし、この反応はヒトとの親密度に関係がないことが実験で確認されました。

視線を威嚇と捉える

次にネコ4頭をそれぞれケージに入れ、50㎝の近距離から顔見知りの飼育担当者5人に5分間観察してもらいました。そして1分間あたりのネコの瞬き回数をカウントしました。

するとケージ前に観察者がいて、視線を向けられているという条件の時に最も瞬き回数が多い結果となりました。瞬きを行うという反応は緊張状態を意味します。ケージの中という逃げられない状況において、たとえ顔を知っているヒトからでも視線を向けられるとネコは身構えてしまいます。

本来動物は他の生き物から視線を向けられた時、敵か仲間かを判断します。これを行わないと野生動物の場合、襲われてしまうためです。コンパニオンアニマルとなった今でもネコはこの習性を失っておらず、ヒトから向けられた視線を「威嚇」と捉えているということです。

【日常生活のネコの行動】

元々は群れをつくらず単独で生活をしていたネコは、ヒトに対しての社交性が低いといわれます。しかしネコと一緒に暮らしているオーナーのみなさんは、いろいろなネコの愛情行動を確認しています。

ネコが好む行動

麻布大学の小林愛は猫オーナー607人に対して、日常生活においてのネコの行動について聞き取り調査を行いました(2017年)。この回答の中でネコがオーナーに対して行ってくる行動や好きそうな接し方として次のようなものがありました(複数回答)。

・オーナーを見て鳴く(97%)
・自分からすり寄ってくる(95%)
・いつもオーナーの近くにいる(90%)
・撫でられるのが好き(90%)

ネコは人付き合いが悪い動物ではなく、自分のオーナーとの間にしっかりと関わり合いをもちたい/甘えたいという行動をとっています。

ネコが苦手な行動

上記のような行動に対して回答率が低いものもありました。

・オーナーの要求に答える(61%)
・抱っこが好きである(49%)
・お手などの芸をする(14%)

このようにネコには特有の好きではない/苦手とする行為・行動がありますが、これらの共通点は「ヒトから一方的に求められること」と考えられます。すなわちネコは自分からオーナーに対して甘える行動をとりますが、オーナーから求められる行為にはあまり答えない動物であるいえます。

ネコが緊張する場面

ネコはイヌと異なり、お手やお座りなどを求めてもなかなか答えてはくれません。またこちらから抱っこをしようとしてもスルリと逃げてしまいます。このような場面ではネコの精神状態はどうなっているのでしょうか?

前回、精神状態は自律神経がコントロールしていて、興奮時には交感神経、リラックス時には副交感神経が作動していると述べました。ヒトからネコに触れ合いを求めに行った時のネコの精神状態を調べた報告を見てみましょう(内山秀彦ら 東京農業大学 2019年)。

内山らはヒトとネコが自由に交流できる状態で5分間過ごし、ネコの副交感神経の活動状態を測定しました。5分間ではヒトからネコに対してエサを与える、おもちゃを使って遊びを求める、頭や胴体を撫でる、見つめるなどを行いました。

結果としてヒトとの交流が始まるとネコの副交感神経(=リラックス神経)は活動を急降下させることが判りました。これはヒトと触れ合っている間のネコは楽しんでおらず、むしろ落ち着かない状態にあることを示しています。

どうやら私たちヒトから距離を縮めようとして一方的にアプローチをかけると、ネコは緊張したり身構えたりするようです。ネコとの生活には一定の距離を保つことがポイントであると考えられます。

【イヌとネコとの接し方】

先ほど猫オーナーへのアンケートで90%の方が「ネコは撫でられるのが好き」と答えていました。対して頭や胴体を撫でると落ち着かずリラックスしていないという研究結果もありました。ネコは撫でられるのが好きなのでしょうか、それとも苦手なのでしょうか?

撫でられることへの反応

ヒトとの交流においてのペットの精神状態を調べた大変興味深い報告があります(小林愛 麻布大学 2017年)。試験条件は以下のとおりです。

●供試動物 
…イヌ(ラブラドールレトリーバー)、ネコ(雑種)
●ヒトとの交流 
…遊びを行わずゆったりと撫でる×20分間
●測定項目
  …心拍の間隔時間、副交感神経の活動状態

ペットを撫でる前の心拍間隔を100として20分間撫でた後の間隔時間を比べると、イヌは短くなりネコは長くなっていました。心拍の間隔が短いとはドキドキしている、長いとはリラックスしているということです。ネコはやはり撫でられることを好んでいます。

次は副交感神経の活動状態です。これも同じく撫でる前の状態を100として比較すると、イヌでは大きく低くなり、ネコは高くなりました。すなわちネコは20分間もの長時間ゆったりと撫でられると、精神状態は落ち着きリラックスした気分になるということが判ります。

今回の試験のポイントは同じ撫でるでも「やさしくゆったりと撫でる」という点です。ネコはオーナーからの積極的な遊びを伴わないで撫でられることを好みます。対してイヌはオーナーと一緒に遊ぶ行為がないと楽しくなく、20分間も単に撫でられるだけでは物足りなさを感じていると思われます。(ご注意:イヌは撫でられるのが嫌いということでありません)。

イヌとネコのキャラクター

では最後にイヌとネコの動物としてのキャラクターの違いをまとめましょう。毎日の生活においてイヌが好きなことは、遊びや散歩・運動といったオーナーと一緒に体を動かすことです。従ってかまってもらえないこと(放置)や一頭だけでの留守番は苦手です。

前回紹介したようにイヌとオーナーは視線を交わすと幸福ホルモン(オキシトシン)を介したポジティブループ状態に入ります。イヌは常にオーナーの顔を覗き込み、アイコンタクトを執ろうとします。

これに対してネコは常に自分が主体です。ネコの方からすり寄って来たり、膝の上に乗ったりしますが急にスッと向こうに行ってしまいます。おもちゃで遊ぶ時もオーナーと一緒ではなく、自分だけで楽しんでいるという感じがします。

また頭から背中をゆっくりと撫でであげるとリラックスして、とても気持ちよさそうにします。しかし視線を向けても見つめ合うことはなく、目を逸らします。ネコはオーナーの視線でも苦手であり本能的に緊張するのでしょう。

以上より、イヌは協調性がありオーナーの意思に合わせて行動することができるため、積極的に触れ合うことが大切です。対するネコもオーナーのことは好きですが自主性が強いため、行動の主導権はネコ自身が握っています。あくまでの私たちはネコとの間に一定の距離感を保ちながら接するのが適切です。

よく「ネコは気まぐれな動物」といいます。イヌと異なり完全にヒトへ自身を任せることがないネコは、未だどこかに野生感を残しているのかもしれません。このようなネコという動物の習性を理解していると、毎日の生活の中でさらに可愛さ・愛しさが増してくると思います。

(以上)

執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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