獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの栄養編:テーマ「凍り豆腐のふしぎ」

コロナ禍の終息にはまだまだ時間がかかりそうですが、街には外国からの観光客が戻ってきているようです。和食は海外の方々にも人気があり、中でも大豆や豆腐は健康に良い食材・食品として広く認識されています。今回は同じ大豆の加工食品でもあまり注目されてこなかった凍り豆腐の不思議な健康機能を探ります。

【伝統食品:凍り豆腐】

大豆はタンパク質や脂質を豊富に含み、また加工することによっていろいろな食材・食品に変わります。

大豆加工食品

私たちの身近にある大豆の加工食品とその加工方法には次のようなものがあります。

○油を搾る
…大豆油、大豆タンパク(搾りかすから精製)
○豆乳を搾る
…豆乳、豆腐、おから
○煎る・粉に挽く
…煎り豆、きな粉
○発酵させる
…みそ、しょうゆ、納豆

凍り豆腐

この中でも豆乳は応用の幅が広く、そのまま飲めば以前紹介した第2のミルク豆乳、にがりで固めると豆腐になります。さらに豆腐は油揚げ、厚揚げ、凍り豆腐になります。

凍り豆腐は出来上がった豆腐を凍らせて、その後圧縮・乾燥させるという特殊な加工が行われています。これによりあの独特のスポンジ構造となり、長期保存が可能なフリーズドライ食品に姿が変わったものが凍り豆腐です。

【凍り豆腐の不思議な機能】

豆腐から作られる凍り豆腐は関西では「高野豆腐」、また他の地域では「しみ豆腐」などとも呼ばれています。なお国内生産シェアの98%は長野県が占めているとのことです。元々一部地域の冬場の保存食であった凍り豆腐ですが、近年思いもかけないような機能をもっていることが判ってきました。

床ずれの早期改善

凍り豆腐メーカーである旭松食品㈱の石黒貴寛らは、実験動物を用いて凍り豆腐が褥瘡の治癒を促進するという報告を行いました(2019年)。褥瘡とはいわゆる「床ずれ」のことで、長期間ベッドで過ごすことにより皮膚に血行不良が起こりただれてくる病変のことです。

実験的に皮膚に病変を発生させたラットを試験群と対照群に分け、試験群ラットには体重換算で成人が1日あたり食べる凍り豆腐1枚相当量(=16.5g)を与えました。

両群ともに皮膚病変は試験開始からおよそ25日後には完治しましたが、途中経過として凍り豆腐を毎日給与したグループの方では病変が速く小さくなることが判りました。理由として、凍り豆腐は大豆タンパク質が豊富であることや傷の修復に有効なアルギニンというアミノ酸が含まれていることなどが考えられています。

高齢ペットの床ずれはオーナーの方々にとって大きな悩みの1つです。褥瘡治癒の促進は痛みの軽減につながりますので、今後ヒトやペットにおいても同様の効果報告が期待されます。

糖尿病リスクの軽減

年齢が進むにつれて日々のエネルギー代謝や運動量は減少します。対して食事やおやつの摂取量は以前とあまり変わらないため、余ったエネルギーは体脂肪としてじわじわ蓄積されます。こうなると心配なのは糖尿病です。

凍り豆腐を長期間摂取することによって、糖尿病のリスクが低くなるという試験成績があります(石黒貴寛ら 2016年)。糖尿病は血液中のブドウ糖量=血糖値が高くなることで発見されますが、近頃はHbA1cという指標で診断されます。HbA1cとは赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合したものです。

石黒らはHbA1cがやや高めの男女7人(平均年齢55.4歳)に凍り豆腐通常サイズを1日1枚×12週間食べてもらいHBA1c値の変化を測定しました。すると試験開始前6.27%であった値が12週後には基準値近くの6.02にまで減少しました。また同時に体脂肪率も23.5%→22.2%に下がっていました。このように凍り豆腐にはエネルギー代謝を促進する作用があると考えられます。

【凍り豆腐を使った食事】

凍り豆腐というとあっさりとした和食のイメージがあります。しかしタンパク質豊富な大豆が原料ですので、肉をこの凍り豆腐に置き換えた健康食メニューが考案されています。

肉から凍り豆腐への置き換え

食事に凍り豆腐を取り入れた場合、健康の目安になる数値がどのように変化するのかを調査したデータを見てみましょう(藤井正信ら 徳島大学 1999年)。試験設定は次のとおりです。

●被験者 男女合計6人(27~62歳)
●食生活の設定
通常の食事メニュー(4日間)
→肉中心の食事メニュー(10日間)
→凍り豆腐を取り入れた食事メニュー(39日間)
●測定項目 血圧、血中コレステロール値

通常の食事を摂っていた時の平均血圧は最高血圧(114.3mmHg)、最低血圧(71.4mmHg)でした。これが肉中心の食事を10日間行うと最低血圧が72.9mmHgに上昇しましたが、凍り豆腐入りメニューにより元の数値にまで戻りました。

血液中の総コレステロール値に関しては大きな変化が確認されました。10日間の肉中心の食事により184.8mg/dl→220.0mg/dlとぐっと上がり、その後一部を凍り豆腐に置き換えることにより通常メニューの食事の時とほぼ同じの188.3mg/dlまで低下しました。

凍り豆腐ハンバーグ

小さい子供から大人までハンバーグは人気のメニューです。しかし中性脂肪が気になるお父さん世代では少し脂肪分を控える必要があります。ひき肉の一部を凍り豆腐に置き換えたハンバーグを食べた時の中性脂肪値を確認しましょう(石黒貴寛ら 旭松食品㈱ 2012年)。

2種類のハンバーグ100gあたりの主な栄養成分は次のようになっています。(数値左:牛ひき肉ハンバーグ、右:凍り豆腐ハンバーグ)
○エネルギー …183kcal vs 175kcal
○タンパク質 …17.3g vs 19.7g
○脂質 …11.3g vs 9.5g

これら2種類のハンバーグを男女合計10人(平均年齢33歳)に食べてもらい、食後の血中の中性脂肪値の変化を算出しました。すると牛ひき肉ハンバーグを食べた場合、食後5時間目をピークとして値は増加します。対して凍り豆腐ハンバーグでも中性脂肪値は上昇しますが、その増加量は低く抑えられることが判りました。

筋肉の構成に必要なタンパク質は減らさずに脂肪分を抑えた凍り豆腐ハンバーグは、中性脂肪やコレステロールが気になる方々にはうれしいメニューです。ペットにおいても高脂血症はフードの対応が大変です。手作りフード派のオーナーの方は凍り豆腐をメニューに活用するのもアイデアです。

レジスタントプロテイン

このように凍り豆腐には中性脂肪やコレステロールといった脂質代謝を改善する機能があります。このうれしい働きは凍り豆腐中のどの成分が関係しているのでしょうか?

凍り豆腐の原料は大豆、大豆といえばイソフラボンです。農研機構の高橋陽子らはイソフラボンがこの脂質代謝に関係しているのではないかと考え、次のような実験を行いました(2011年)。

●供試動物 ラット
●グループ
牛乳カゼイン群 …イソフラボン無添加および添加
大豆タンパク群 …イソフラボン無添加および添加
凍り豆腐群 …元々イソフラボンを含む

エサのタンパク源を牛乳や大豆とし、これに凍り豆腐に含まれているのと同量のイソフラボンを添加してラットに2週間給与しました。終了後の中性脂肪値を測定したところ、凍り豆腐を給与したラットが最も低い値という結果になりました。

この試験データから肝臓で行われている脂質代謝に作用し、高めの中性脂肪値やコレステロール値を抑えていたのはイソフラボンではないことが判りました。現在、これらの働きを担っているのは凍り豆腐に含まれる特殊なタンパク質「レジスタントプロテイン」であるとされています。

レジスタントプロテインとは「難消化性タンパク質」という意味で、胃や小腸で消化吸収されにくいタンパク質をいいます。凍り豆腐にはこのレジスタントプロテインが多く含まれており、これによってエネルギー消費をアップさせたり脂質代謝を抑えたりする作用があるということです。

いろいろある大豆加工食品の中で、凍り豆腐にレジスタントプロテインがたくさん存在するのはとても不思議です。次回はこの理由と研究が進みさらに明らかになってきた健康機能を紹介します。
(以上)

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「畑の肉」といえば大豆ですが、豆腐タンパク質をはじめ食物繊維や多種のミネラル・リノール酸が含まれていて優良な食材です。


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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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