獣医師が解説

【獣医師が解説】ペットの病気編:テーマ「肥満レトリーバーの骨疾患リスク」

ペットのケガの中でも骨折は本当に痛々しいものです。小型犬の骨折では床の滑りが大きく関係していますが、室内でさほど激しく動き回らない大型犬はどうでしょう。今回は体重負荷が大きいレトリーバーの骨の病気リスクについて考えてみたいと思います。

【大型犬の飼育状況】

公園でも街中でもオーナーと散歩をする大型犬は周りの人からの注目を集めます。米国の飼育犬としてはラブラドール・レトリーバーやジャーマン・シェパード、ロットワイラーなどが主流ですが、現在日本にはどれくらいの大型犬がいるのでしょうか。

飼育頭数

令和3年度日本ペットフード協会の調べでは、日本で飼育されているイヌの頭数はおよそ710万頭です。その中で人気の犬種1~3位はトイ・プードル、柴犬、チワワでどれも小型犬です。大型犬ではゴールデン・レトリーバーが10位、ラブラドール・レトリーバーが12位に入っています。

サンプリング調査結果から頭数を算出するとトイ・プードル約100万頭(全体の14.2%)、G・レトリーバー約13万頭(1.9%)、L・レトリーバー約11万頭(1.6%)となります。現在の大型犬の飼育頭数はざっと小型犬の1/10です。

オーナーの年齢

飼育犬種とオーナー年齢との関係を見てみると少し意外な結果になっています。小型犬の代表であるトイ・プードルでは20代および70代の占める割合がそれぞれ6.6%、11.5%です。対してG・レトリーバーは20.9%、20.8%、L・レトリーバーでは14.5、38.1%です。

大型犬の飼育にはやはり体力が必要ですので20代オーナーが多いのは判りますが、実は70代オーナーの占める割合も大変高くなっています。住居環境や経済的な点からシニア層は大型犬を飼育する条件に適しているのかもしれません。

【大型犬に好発する病気】

小型犬・大型犬にはそれぞれに起きやすい病気があります。ここでは大型犬に好発するものを3つ押さえておきましょう。

代表的な疾患

1つ目は「胃拡張捻転」です。これは過食や食事の後すぐに運動をすることにより、胃が拡張し捻転(ねじれ)を起こすものです。胃の中で発生したガスは逃げ道がないため腹部がパンパンに膨らみます。またよだれを流したり、吐きたいしぐさを示すものの吐くことができない状態(空吐き)を見せます。

2つ目は「拡張型心筋症」です。心臓は全身に血液を送るポンプにあたる臓器ですが、収縮力が低下してやがて丸く大きく拡張する状態をいいます。血液の流れが弱まるため、筋肉や臓器には十分な酸素が届けられなくなります。この結果、運動後に疲れやすい様子や呼吸しにくい状態が見られます。また、血管から浸み出した水分は胸腔・腹腔に溜まり胸水・腹水となります。

股関節形成不全

3つ目は「股関節形成不全」という病気です。股関節は大腿骨のボール状の骨頭が腰骨の凹み部分に収まる「球関節」というタイプのもので、広範囲に自由な運動ができる構造をしています。

関節を形成する2つの骨はバランスよく発達しなければならないのですが、成長が急激な大型犬ではズレが生じる場合があります。この結果、関節部分に炎症や変形・緩みが発生し、脱臼が起こりやすくなるのがこの病気です。

症状は成長期(4~12か月齢)に確認され始め、痛みにより跛行や横座り、うさぎ跳びのような動きを見せます。また頭を下げて腰を左右に振りながら歩く「モンローウォーク」という独特な歩行を示します。

大型犬は体重負荷が大きいため日頃の体重管理と、小型犬と同じくフローリングの滑り止め対策などが発症を抑えることにつながります。

【レトリーバーの股関節疾患】

現在の日本では大型犬の飼育頭数は多くありませんが、その中でレトリーバーは人気の犬種です。前回の紹介どおりレトリーバーは肥満になりやすく、同時に骨、特に後肢を支える股関節のトラブルが多いというリスクを抱えています。

大型犬種と股関節疾患

海外では飼育割合が高いためか、大型犬の股関節疾患に関する研究結果が多数報告されています。その中で犬種別の股関節形成不全の有病率データがあります(海外文献 1992年)。これによると有病割合が最も高いのはセント・バーナードで48.1%もあります。日本では人気第10位のG・レトリーバーは23.5%となっています。

これら大型犬の成犬体重はセント・バーナード(50~90kg)、ニューファンドランド(50~70kg)、バーニーズ・マウンテン・ドッグ(40~50kg)、G・レトリーバー(30kg前後)ですので、やはり体重が大きいほど股関節形成不全の有病率も高くなることが判ります。

年齢との関係

前回、大型肥満犬は寿命が短くなるというデータを紹介しました。これと同じ研究グループが肥満と股関節疾患との関係について報告を行っています(海外文献 2006年)。

●供試犬 ラブラドール・レトリーバー(6週齢)
●グループ
  自由給餌群(24頭)…通常のフードを給与
  制限給餌群(24頭)…エネルギー量を25%削減したフードを給与
●測定項目
  股関節変形症の初発年齢、BCSと有病率

まず全48頭について股関節変形症が確認された年齢を見てみましょう。これによると年齢が進むにつれて有病率はどんどん上がっていきます。そして死亡年齢時点では67%という大変高い値でした。

一般的にペットは年齢に伴い体重は増加し肥満化しやすいものですが、レトリーバーのような大型犬は体重の負荷が大きいため、股関節疾患の発症リスクも高くなります。

肥満度との関係

では2つのグループに分けられたレトリーバーの肥満度と股関節変形症の関係を確認します。自由給餌群では6~12歳の平均BCSは6.7(過体重)で初発年齢の中央値は6.0歳でした。対して制限給餌群のBCSは4.6歳(適正体重)、初発年齢は12歳でした。

また両グループの年齢ごとの有病率を見ても、制限給餌群に比べて肥満度が進んだ自由給餌群の方がはるかに高くなっています。

このようにレトリーバーに好きなだけ食事を与えると摂取カロリーが超過して肥満を招きますが、これは小型/中型犬でも同じです。ただし大型犬では犬種の特性として股関節変形症の発生を増大させることにつながります。

しかしこれを逆に考えると、肥満になりやすい大型犬では摂取するエネルギー量(食事)と消費するエネルギー量(運動)を適切に管理すれば、股関節疾患の発症リスクを抑えることが可能となります。

肥満と血中Ca量

骨の疾患というとCa(カルシウム)不足が頭に浮かびます。最後に大型犬レトリーバーの体内Ca量に関する調査データを2つ紹介しましょう(重岡元子ら 大阪ゼンヤク㈱ 2000年)。

1つ目は一般家庭で飼育されている大型犬調査です。全199頭のうち100頭は適正体重、85頭は過体重でした。そして血中Ca量を測定したところ、全体の30%は基準値以下であったといいます。

2つ目は共に大型犬であるゴールデン・レトリーバー(69頭)とラブラドール・レトリーバー(41頭)の栄養調査です。G・レトリーバーの過体重割合は64%、血中Ca濃度の平均値は9.7㎎/dl、そしてL・レトリーバーでは47%、8.4㎎/dlという結果でした。

イヌの血中Ca濃度基準値を8.5~11.2mg/dlとするとG・レトリーバーの24%、L・レトリーバーの52%が基準値以下となっていました。このようにレトリーバーは肥満傾向が強く、これに加えてラブラドール・レトリーバーはCa不足による骨疾患リスクが高い犬種であると考えられます。

大型犬の素敵な点はあらゆる面において量感(ボリューム)が大きいことです。フード・おやつを豪快に食べ、ゆったりと散歩をし、抱きしめた時に十分な満足感が得られるなど小型犬とは違った魅力があります。(ただし留守番中のいたずらにも驚くような量感がありますので要注意です)

また大型犬は太りやすいという性質も抱えていました。ある程度の体重は貫禄があっていのですが、肥満は骨疾患リスクを高めてしまいます。大型犬オーナーのみなさんは毎日の食事と運動の管理に留意して、病気・ケガのケアボリュームは小さく抑えるようにして下さい。

(以上)

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執筆獣医師のご紹介

獣医師 北島 崇

本町獣医科サポート

獣医師 北島 崇

日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科 卒業
産業動物のフード、サプリメント、ワクチンなどの研究・開発で活躍後、、
高齢ペットの食事や健康、生活をサポートする「本町獣医科サポート」を開業。

本町獣医科サポートホームページ

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